肛宴のお龍

最終回 鬼畜肛姦

しんと静まり返った座敷ではお龍が泣き叫びながらも、裸身をくねらせることを必死で我慢して相模屋の一物を後門に受け入れていた。ついさっき下手に暴れたばかりに、今はお龍の身体を押さえるものは一人もおらず、 もし暴れたらお京と交代させるという親分の脅しに屈して歯を食い縛って耐えているのである。こんなことなら大勢のヤクザ達に押さえつけられて無理やり犯されたほうが余程ましだったとお龍は悔やんだ 。

しかも少しでも漏らしたらお京と交代だと脅かされていては、今にも漏れそうな便意を必死に耐えて窄めている後門に無理やり捩じ込まれた一物を、ただただ食い締めるしかないのであった。

「クククゥゥゥァァァアアアアーーー」

再びお龍が身体を仰け反らせながら気を遣った。一体何度気を遣れば相模屋が射精してくれるのか、それまで果たして漏らさずに我慢できるのか、いやそれよりもこんな獣じみたことをして天罰が下るのではないか。

「イヤァァァァァーーー」とお龍は泣き叫んだが、後門はお龍の気持ちとは裏腹に相模屋の一物に絡みつきながら快感に震えていた。

「おぉおぉ、そんなにいいですか。後門が震えてますな。これは堪らん」

相模屋は顔を紅潮させ、だぶついた腹を揺らせながらゆっくりと抜き差しを繰り返した。そして抜き差しされる度にお龍は仰け反りながら裸身をガクガクと震わせ泣き叫んだ。

「よしよし、良い子だ、もう少しの辛抱だ」

それまでじっとお龍を見つめていた親分だったが、遂に我慢が出来なくなったのか、仰向けになったお龍の顔を抱くように上体を寄せると唇を重ねた。

「ムゥゥゥゥ」とお龍が呻きながら一層激しく裸身を震わせると、相模屋が「もう、堪らん」と呻いたので、親分は唇を離してお龍の顔を見つめた。

あれだけ嫌がった相模屋の射精を、誰にも身体を押さえつけられずに、一体どんな顔をして受け入れるのかじっくりと見たいと思ったのだ。そしてこの時初めて、お龍を相模屋に渡すのは惜しいとはっきりと思った。

「くくく……くらえっ!」と相模屋が叫び、お龍が「イヤァァァァァーーー」と泣きながら身体を仰け反らせた。遂に射精が始まったのだ。

大きな目をカッと見開き、大粒の涙をボロボロと流しながらもお龍は裸身をくねらせることはできなかった。後門から一物が外れたりしたら勿論のこと、少しでも後門と一物との間に隙間が開いて緑色の浣腸液が漏れれば、そこでお京と交代させられるのである。お龍に出来ることは、ドクンドクンと脈打つ相模屋の一物を後門で必死に食い締めることだけだった。怒張の脈動を敏感な後門の粘膜で感じ取り、そこから沸き起こる壮絶な快感によって後門を、いや全身を震わせながら何度も何度も絶頂へと追いやられようとも。

その時である。

「相模屋はいるか!」

大きな声を上げながら鉄二が駆けこんできた。そしてお龍の後門に一物を根本まで挿入し、射精しながら呻いている相模屋を見つけると、「けだものっ!」と叫びながら突進して突き飛ば した。

突然一物を引き抜かれたお龍は、「ククククゥゥゥゥ」と呻きながら必死に後門を窄めた。

「何事だ、鉄二!」

親分が血相を変えて怒鳴った。

「こ、こいつが捨てた赤子は……」

鉄二が親分と相模屋を交互に見ながら言った。

「ヒィィィィ」とお龍が悲鳴を上げた。

「どうしたんだ。その赤子を知ってるのか?」

親分がお龍を抱いていた腕を離して立ち上がった。

「鉄二さん、言わないで!」

お龍が叫んだが、鉄二は首を振って続けた。

「知ってるも何も、西組の将人ですよ」

「将人も捨子だったのか」

「そうです。お互い捨子同士でしかも同じ日に拾われた……」

「ということはお龍が……」

親分が呻くように言うと、「イヤァァァァァ」とお龍が叫びながら裸身をくねらせ、相模屋は真っ青な顔で口を大きく開けたまま、へなへなと崩れ落ちた。

「お前の捨てた赤子がこのお龍だ!」

ドスを振りかざした鉄二が叫びながら相模屋に斬りつけようとした。

しかしその時、「動くな!」と家中を揺らすような大声がしたので皆が入り口の方を見ると、そこには竜也を中心に西組の六人がドスを構えてい て、後ろ手に縛りあげた仙吉を引き連れていた。

今にも相模屋に斬りかからんとしていた鉄二を始め東組のヤクザ達が唖然としていると次の瞬間には庭に面した二方の障子がスーッと開き、 平五郎・平吉郎の親子以下南組のヤクザがズラリと並んでドスを振り上げていた。西組・南組の連合軍が遂に到着したのである。

「コノヤローッ!」

叫びながら東組のヤクザ達は慌ててドスを取りに走ろうとしたが、殆どの者はすでにかなり酔っており、あっという間に取り押さえられた。しかし円卓の上で胡座縛りになっているお龍の首筋にドスを突きつけた東が大声で叫んだ。

「平五郎、よくも裏切ったな!」

連合軍のヤクザ達がドスを振り上げて東に近づこうとしたが、「動くな、近寄るとお龍の命は無いぞ」と左右そして後ろを振り返りながら東が叫んだので連合軍のヤクザ達は止まらざるを得ない。唯一、円卓の反対側にうずくまって震えているお京の姿だけが東からは陰になっている。

「東、分かってるのか」

平五郎が怒鳴り返した。そして取り押さえた鉄矢の首筋にドスを突きつけて東と睨み合った。

「相模屋の狙いは最初からお龍を手に入れることだったんだ。お前はまんまと乗せられたんだぞ」

東の顔が一瞬引き攣り、平五郎を睨み返した。

その瞬間を竜也は見逃さなかった。脱兎のように円卓の陰に飛び込むとお京を抱きかかえた。

「うるさい!」

東は怒鳴るとドスを一層強くお龍の首筋に当てた。

「ククククク」

お龍の呻き声に、お京を抱きかかえた竜也は思わず首を伸ばしたが、目の前に無残にも脚を開かれたお龍の局部が露わになっていたので慌てて首をすくめた。

「酷いことを」

竜也は呟きながらも東の隙を伺った。

東はお龍の首筋にドスを押し当てながら自問していた。平五郎の言うことも一理あるような気がする。相模屋が今夜現れたのは偶然にしては出来すぎている。 あの口の上手い商売上手な相模屋にまんまと乗せられたのかもしれない。しかし、そのお龍が相模屋が捨てた赤子であったとは。

ほんの一瞬であったが相模屋を憐れむ気持ちが起き、東は相模屋の姿を座敷の中に探した。しかし、座敷の中にはいないようだ。逃げたのか?

その隙を竜也は見逃さなかった。

「ヒュッ」と音を立てて竜也の手からドスが飛んで東の首筋に突き刺さると、「グゥェッ」という呻き声と同時に東の手からドスが落ちた。

カッと目を見開いた東が首筋に刺さったドスを抜くと真っ赤な血が噴き出し、必死に伸ばした 左手で円卓に掴まりながら倒れると、「ヒィー」という悲鳴と共に胡座縛りになったお龍の身体が回り出した。

「お龍姉さん!」

竜也が駆け寄ろうとした。

しかし、「来ないで、見ないで!」とお龍が叫び、竜也が立ち止まった途端にお龍は「イヤァァァァァ」と叫びながらニュルニュルと緑色の蛇をひり出し始めたのである。

「ね、姉さん……」

一体何事が起きているのか分からず竜也は絶句し、連合軍のヤクザ達もお龍が泣きながら次々と蛇をひり出すのをあっけに取られて見守っていた。

やっとお龍の裸身が一回りして止まると、円卓の上には顔に白い模様を付けた見事なニシキヘビが横たわっていた。

お龍は「ハァーハァー」と荒い息をしていたが、自分に向けられている視線に気づくと、「イヤァ」と顔を背けた。

「お龍姉さん!」

お京が座敷の隅に落ちていた肌襦袢を拾って駆け寄り、まだ紅潮したままのお龍の裸身を覆うとするが、胡座縛りで首縄を掛けられているので 上手く被せられない。止む無く胸から腹の辺りに首縄をくぐらせるように肌襦袢を掛け、そこから下に拡げて胡座に縛られている下腹部を覆った。

続いて我に返った竜也が駆け寄って まず首縄を切り、そしてお龍が腰を伸ばすと足首を縛った縄を切り、やっとお京が肌襦袢でお龍の全身を覆うことができた。

「ありがとう、お嬢様」

涙で濡れた目を開いてお龍が言うと、「お龍姉さん、ありがとう、辛かったでしょう、私が馬鹿だった為に姉さんを酷い目に合わせてしまって……」とお京はお龍に抱きつくように泣き崩れた。

「姉さん、ちょっと身体を起こして下さい」

竜也はお龍を抱きかかえて上体を少し起こすと、後手を縛っていた縄を切った。長時間縄を掛けられていた手首には真っ赤な跡が付いていた。

平五郎は円卓の傍に駆け寄ると座敷中を見渡した。もう抵抗する東組のヤクザはいないようだ。

「屋敷中を探せ。一人残らず捕まえるんだ」と平五郎が叫ぶと、平吉郎始め南組の数人が飛び出して行った。

「姉さん、もう大丈夫です」

竜也が肌襦袢を羽織ったお龍を抱きかかえるように円卓から下ろすと、「竜也、ありがとう。きっと助けに来てくれると信じてたわ」とお龍が言った。

「遅くなって済みませんでした」

竜也が謝るとお龍は黙って首を左右に振ってから、「さっきは偵察に来たんでしょう?」と言った。

「やっぱり気付きましたか」

「あなたの気配は分かるわよ」

そう言って微笑んだお龍の顔はいつだったか厠の壁に張り付いていたことを咎められた時と同じであった。

「姉さん!」と竜也は思わずお龍を抱きしめた。

「お龍姉さん、着物は隣の部屋に」

お京が 指差す方を見た竜也はお龍をお京に託すと、続きの間へ入って押入れや天袋の中に東組のヤクザが潜んでいないことを確認した。そして二人を 部屋に入れると「私は外で待ってます」と言って襖を閉じた。

東の親分は既に絶命していたが、残りの者は酷い怪我をしたものはあっても命は取り留めたようで、次々に連合軍のヤクザ達によって縛り上げられていた。

「相模屋を捕らえましたよ」

平吉郎が相模屋を捉えて引きずってきた。

「真っ先に逃げるとは卑怯な奴だ。どうする、竜也」

竜也は相模屋を上から下まで見渡すと、「お龍姉さんを手篭めにするような奴は俺が許さん。ぶっ殺してやる!」と言ってドスを振り上げたが、その時襖がスーと開き、「待って」とお龍の声がした。

ヤクザ達が一斉に振り返ると、薄紫色の訪問着姿のお龍が襖の向こうから現れ、どこからともなく「オォッ」とどよめきが起こった。

乱れていた髪は夜会巻きに結い直されて玉簪で飾られ、薄化粧まで施した美しい顔には先程まで泣き叫んでいた面影は微塵も無い。木の実をあしらった金の刺繍を太腿あたりに、そして紗綾形模様を裾に入れた薄紫色の訪問着を、金模様の入った漆黒の帯できりりと締めたお龍の立ち姿に、男達は我を忘れて見入ってしまった。

この美しい婦人が、つい先程一糸纏わぬ全裸で胡座縛りにされ、回転する円卓の上で後門から緑色のニシキヘビを産んだのだ。「ゴクン」と唾を飲み込む音があちこちから聞こえ 、思わず前を押さえる若い衆もいた。

「お龍、すまなかった。お前だとは知らなかった」

相模屋が縄を掛けられた身体をひれ伏した。

「どういう事です、姉さん」

竜也が言うと、他のヤクザ達も不思議そうな顔でお龍の方を見た。

お龍は二度、三度と大きく深呼吸をした。そして少し俯きがちになると、「実は相模屋さんは私の父上だったのです」と言った。

「何だって……」

それ以上は竜也も言葉が出なかった。

「済まない、お龍ぅぅうううう」

相模屋は畳に額を擦りつけて涙を流した。

「相模屋さん」

お龍が静かに口を開いた。

「は、はい」と相模屋が答えた。

「女を手篭めにして嬲りものにするとは何事ですか。このような事は相手が私で無くても許せません。如何に父上と言えども」

「す、すまん」

「今までの罪を償って下さい。相模屋さん、いえ、父上、あなたのやり方で。しばらくは見させてもらいます。そして私が納得出来なければ、どこへ逃げられようとも必ずや探しだして私が父上を斬ります」

「わ、分かった、約束する、必ずお前に納得してもらえるように罪を償う、ぅぅうううう……」

相模屋は畳に額を擦りつけながら身体を震わせて泣いた。

「鉄二がいました!」

若い衆が二人がかりで鉄二を引きずって来た。

「こいつよくも、お龍姉さんを」と竜也が鉄二に切りかかろうとするが、やはりお龍が止めた。

「やめておきましょう。東の親分が亡くなったから鉄二はもう何もしません」

「そうですか?」と竜也が不安そうにドスを収めた時、「お龍、俺と真剣勝負してくれ」と鉄二が叫んだ。

「お前さんとでは勝負にならないでしょう」と、お龍が顔を左右に振りながら微笑んだが、「最後に男にしてくれ」と鉄二は聞かない。

「俺も親分や相模屋のやり方は気に喰わないんだ。女を寄ってたかって嬲りものにするなんぞ侠客のやることじゃない。一対一で勝負してくれ。このままだと俺は一生負け犬で終わってしまう」

「でも私と真剣勝負すれば、命を落とすかもしれませんよ」

「それでもいいんだ!」

お龍の顔から笑みが消えた。

「分かりました。鉄二の縄を解いてやって」

お龍が言うと若い衆が鉄二の縄を解き、周りを取り囲んだ。

竜也が「おい、姉さんのあれを」と振り向いた。

すかさず若い衆が少し細身の長ドスを差し出した。

「姉さん、もしかして要るかと思って持ってきました」

「まぁ、懐かしい」

お龍はまるで久しぶりに恋人にあったかのように白鞘に収められた長ドスを眺め、ゆっくりと撫でた。

忘れもしない、将吉親分が特注してくれた長ドスである。刀身は細身で刃渡りも普通より長めであり、体格では男に劣るお龍が大技つばめがえしを繰り出すための謂わば「お龍専用」の長ドスである。

「鉄二さんにも長ドスを渡してやって」

「おい」と竜也に言われ一人の若い衆が鉄二にも長ドスを渡した。

「みんな、下がって」

ヤクザ達がお龍と鉄二を遠巻きにした。

「お龍、ドスを抜くんだ!」

鉄二が右手で柄を握って長ドスを抜くと、鞘を捨てて上段に構えた。

お龍も右手で柄を握ったが、その時、訪問着の袖が邪魔になることに気付いた。

「待って」

「何だ!」

鉄二は今にも斬りかからんばかりの形相でお龍を睨みつけるが、お龍が平然としているので手が出せない。そんな鉄二を誂うように、お龍は左手で長ドスの鞘を握ったまま、右手を柄から離すと一旦袖の中に引っ込めた。

今、斬りかかればお龍は防ぎようが無い筈だ。左手で長ドスの鞘を掴んでいるだけであるし、その左手も訪問着の袖が手首まで被っていて俊敏な動きは出来ないはずである。しかし鉄二は斬り込めなかった。あまりにも無防備なお龍の体勢はきっと罠に違いないと思ったのだ。

鉄二がイライラしながら睨んでいると、お龍は引っ込めた右腕を胸の合わせ目から出して片肌を脱いだ。

「オオッ」とどよめきが起こった。晒を巻いていないので豊満な胸が露わになったのである。

「クソッ」と鉄二が呟いた。馬鹿にされたと思った。

しかしお龍はそんなことは気に留める様子もなく、再び柄を握ると長ドスをスルリと抜き、鞘を捨てて右足を少し後ろへと引き、半身になると剣先を下げて右後ろへと回した。脇構えである。上段に構えている鉄二に対して脇構えで対抗され鉄二はさらに頭に来た。

しかし何とか斬りかかろうと必死の形相で睨んではみるものの、自然体の脇構えで待つお龍には全く隙が無い。しばらく睨み合いを続けていたが、仕方なく鉄二はジリジリとお龍に詰め寄り、お龍は間合いを詰められないように少しずつ下がったが、そのうちに障子を背にしてしまいそれ以上は下がれない。

ニヤリと顔を歪めて鉄二が斬りかかった。

「くらえぇーーー!」

しかし寸前でお龍がひらりと上体を右に傾けたので、鉄二の長ドスは勢い余って「ガシッ」という音を立てて障子を斜めに断ち切ってしまい、鉄二はよろけて二三歩蹈鞴を踏んだ。

さっと右に半歩移動したお龍が身体を左に捻りながら上段に構えた時は、鉄二はまだ俯いたままで剣先は下に向いていた。皆がこれで鉄二は終わりだと確信した。

 しかしその時、「お龍っ!」と叫びながら、斜めに切断された障子の向こう側から若い衆がお龍に斬りかかった。

「卑怯者!」

お龍の鋭い声が飛び、上段に構えた長ドスが一瞬翻ると、若い衆の喉元を一突きにし、「グェッ」と叫んだ若い衆はもがきながら身体をくねらせると障子を背にして倒れ込み、そして動かなくなった。

命拾いをした鉄二は顔を引き攣らせて体勢を立て直そうとするが、それよりも早く、「東組は真剣勝負の作法も知らないのかい」と、お龍が袈裟懸けに斬りつけた。

しかし間一髪で鉄二は辛うじて斜めに差し上げた長ドスで何とか凌いだ。お龍の左の袖が少し邪魔をした為に、鉄二にほんの僅かの時間を与えてしまったのだ。しかも鉄二にとっては幸いなことに、お龍の長ドスは斜めに下がっていた鉄二の剣先に向かって流れてしまい、お龍は少しよろけて右ひざをついてしまった。

再び鉄二がニヤリとした。片膝を着いたお龍を逆に袈裟懸けに斬りつけようと、差し上げた長ドスを上段に構えた。しかし次の瞬間、お龍の長ドスはぐるりと円弧を描きながら斜め下方から鉄二の首筋を襲い、「ザッ」という音と共に鉄二の首が転がった。

「つばめ返しだ……」

誰ともなく呟く声が聞こえた。

「フゥー」と大きな息を吐いたお龍は、畳の上に転がった首を見て「馬鹿な鉄二」と呟いた。

つばめ返しのお龍(SIZE 2480x3508)

すると険しい形相のままで息絶えていた鉄二の首が、まるでお龍の声が聞こえたかのように満足そうに微笑ん だ。


京子の祝言は滞り無く終わった。将吉は隠居の身となり竜也が西組の後を継いだ。竜也は改めてお龍に一緒になろうと言ったがお龍は頑なに断り、再び田舎へと帰っていった。

親分と鉄二を失った東組は解散し、残ったものの多くは西組と南組に引き取られた。お銀は、相模屋の紹介で小さな呑み屋を始め、器量の良さと持ち前の機転が功を奏して次第に繁盛するようになった。

その後、相模屋とお龍の消息を知るものはいなかった。

何年か経った頃、お銀の店に二人連れが立ち寄った。どうやら旅の道中のようだ。酒や料理を供しながら二人の話が聞くとも無く耳に入ってくる。

「おい、それにしてもあの尼僧は美人だったな」

「ああ、噂には聞いていたが、あれ程までとは。説教を聞きながら俺は良からぬことを考えてしまったぜ」

「罰当たりめが。実は俺もそうだった。それに、寺で働いている女共も美人揃いだったな」

「そうだな、どうやら女郎の駆け込み寺というのは本当らしいな。少し遠かったが行った甲斐があったな」

「失礼ですが、お客さん、それはどちらのお寺ですか?」

「えっ、寺の名前かい?相模寺っていうんだが、高尾山の方だ。駅から歩くと二時間くらい掛かるんだが、泊めてくれるし、美人の尼僧の説教も聞けるとあって結構人気なんだぜ」

「何でも大儲けした商人が不幸な女共を助けようと全財産を寄付して建立したそうだが、そいつは直ぐにポックリと死んだそうだ」

「それで尼さんはどんな方でした?」

「どんなって、すらりと背が高くて、尼さんじゃなかったら男どもがほっとかないような、それは美人だぜ。いや、あんたも美人だが、いい勝負だな」

「それに剣の達人らしく、子供たちに剣術を教えてるそうだが、父親が一緒に習いたいって押しかけてくるんで大変だそうだ」

「ほら、これが寺の案内だ。尼さんの写真が載ってるだろう」

客が差し出した案内を見たお銀は息を飲んだ。

「お龍さん……」

涙が次々と溢れてきた。

(完)


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