肛宴のお龍

41.竜也の思い出

それは決して忘れることの出来ない声であった。

中学に入りたての頃である。隣町の女学校を卒業したばかりのお龍が一緒に住むようになった。親分の養女であるから竜也の義理の姉になるわけだが、突然現れた美しい 姉は竜也にとっては眩しすぎて、 最初は恥ずかしくて顔も見ることが出来なかった。しかし、剣術や合気道、それに勉強も見てもらい可愛がってもらううちに「お龍姉ちゃん」と呼んでいつもくっつき回 るようになった。

ある日の昼下がり、お龍が厠に入るのを目撃した竜也はこっそりと家の裏に回った。覗き見する等という大それたことではなく、ただ単に美しいお龍が排尿の時に一体どんな音を立てるのか聞いてみたかったのである。

しかし厠の中から聞こえてきたのは、お龍が必死になって固い便を排泄しようと息む声であった。

「フゥムムムゥゥゥ……フゥムムムゥゥゥ……」

お龍の美しい顔が歪むのが目に見えるようだった。

聞いてはいけない。こんな所にはいてはいけない。思春期の少年の好奇心と良心の呵責が竜也の身体の中で葛藤した。

しかし竜也は最後まで、お龍がようやく排泄を終わって最後に喘ぎ声を漏らすところまで、厠の壁に耳を押し付けるようにして聞いてしまったのである。

我に返った時には下帯の中が生暖かいもので濡れていた。精通であった。

慌てた竜也は紙で拭おうと思って家の中へ戻り、もうお龍は出た頃だろうと厠へ向かったのだが、廊下の向こうから未だ幾分顔を上気させたお龍がこちらに向かって 来た。お龍は竜也を見ると少し恥ずかしそうに微笑んだが、竜也は耳たぶまで真っ赤になり俯いたまま黙ってすれ違ったのだった。

それからしばらくは竜也はまともにお龍の顔を見ることが出来なかった。剣術の稽古ではこてんぱんに打ちのめされるし、勉強を見てもらう時にはお龍が横に座っただけで息苦しくなった。お龍の身体に触れなければならない合気道の稽古は何とか 理由を付けて断り続けた。

「どうしたの竜也、最近おかしいわよ」

お龍がそう言って顔を覗きこむと、竜也は顔を赤くして俯き黙り込んだ。

そして一週間もしないうちに、竜也は本当に風邪をこじらせて高熱を出し寝込んでしまったのである。 床に臥しているとお龍が食事を運んでくるのはもちろん、濡れ手拭いを替えたり熱を測ったりとしょっちゅう様子を見に来た。その度に竜也は息苦しくなった。

最も辛かったのは、いや今になっては最高の思い出なのであるが、それはお龍に身体を拭いてもらったことである。湯を張った桶を持ったお龍が部屋に入ってくると、身体を拭いてあげるから寝巻を脱げと言う。拭かなくてもいいと言い張っても聞いてもらえず、布団を剥がれ帯を解かれて胸を肌蹴られ、胸をゴシゴシと濡れ手拭いで拭かれた。お龍が顔を近づけてくるので、思わず目を瞑ると女の香りがして一物が固くなったが、手で押さえるわけにはいかずそのまま我慢していた。寝巻はさらに胸から腹そして足元まで肌蹴られ、濡れた手拭いが腹から脚へと動き、お龍の 熱い吐息が身体のあちこちに触れるとそこが熱を持ったように熱くなった。

うつ伏せになってと言われ、一物を上に向けて腹ばいになると、寝巻を袖から抜かれて上半身裸にされ、背中から腕を丁寧に拭かれた。寒くないかと聞かれたから、平気だと答えると、寝巻を剥がされ下帯一つの裸にされ、尻から太腿の裏そして足先までを拭かれた。

やっと終わったとホッとしていたら、次にお龍は下帯を解き始めるではないか。それはいいと言っても、ここが一番不潔になるんだから拭かないと駄目よと言って聞いてもらえず、 必死に足を閉じて抵抗していたが、洗濯しておいてあげるからとスルスルと下帯を抜かれて素っ裸にされた。尻をもう一度丁寧に拭かれ、その次には手拭いが腰の辺りから前に回ってきた。

益々固くなる一物を何とか悟られまいと祈っていると、手拭いはぎりぎりの所で戻ったのでホッとしていたら 、きつく閉じていた太腿の間をいきなり温かい手拭いで撫でられ身体中の力が抜けてしまった。

ウッと呻いて気がついた時には股間から伸びてきた温かい手拭いで陰嚢と 共にカチカチになった一物が抱かれていて、同時にお龍が「まぁ!」と驚きの声を上げた。

思わず太腿を閉じるとお龍の柔らかい腕を挟んでしまい、一層一物を固くしてしまうとお龍はウフフと笑いながらギューギューギューッと一物を握りしめ、竜也はウッと呻 きながら射精 してしまったのである。

あんなことをした罰よ、壁の向こうに居たってあなたの気配は分かるわよとお龍は言った。

厠の壁に耳を押し付けて聞いていたのを知られていたのだった。だから廊下ですれ違った時にお龍も少し恥ずかしそうな顔をしたのだ。

竜也は何も言えずに布団に突っ伏し、泣いて許しを請うた。

これでおあいこだからもう泣かないの。

お龍はそう言うと一物を拭うように手拭いを取り去り、竜也の身体に布団を被せると部屋から出て行った。

おあいこだから。

その言葉で竜也は救われた。 そして熱が下がって起きだした頃には、少しずつではあるがお龍の顔を見ることが出来るようになっていた。 お龍がふたなりであり、以前は将人だったと聞かされたのは何年も後に竜也が成人した時のことであった。

「フゥムムムゥゥゥ……フゥムムムゥゥゥ……」

竜也は我に返った。今まさに竜也の頭の上でお龍が息んでいる。

お龍が何をさせられているか明らかだった。一糸まとわぬ全裸で男に跨らされ、両手は後で縛られている上に両足も交差させて縛られた姿で、排便を強要されているのだ!

今直ぐ助けてやりたい。

そう思った瞬間、竜也はお龍に気付かれたかも知れないと思った。

死ぬほど恥ずかしい目に合っているところに竜也がいると分かれば、お龍に一層辛い思いをさせてしまう。

お龍姉さん!

平吉郎が心配そうにこちらを見ている。竜也は小さく手で合図すると広縁の下から出て庭の植え込みの中へ戻ろうとした。お龍から離れれば気配は消えるだろうと。

しかしその時、再びお龍が息んだ。しかも続けて大きく喘いだのである。

「フゥムムムゥゥゥ……アアァ、アアァ、ゥゥゥァァァアアアア」

思わず一旦は立ち止まった竜也だが、歯を食いしばって庭の方へ走った。

「イヤァァァォォォオオオオ……」

お龍が泣き叫んだ。まるで竜也に縋りつくように。

お龍の叫びを振り払うように植え込みの間に戻った竜也は、「行くぞ」と平吉郎に声をかけ、中腰になって歩を進めた。

竜也を追いかけるように再びお龍が泣き叫んだ。

「アゥゥゥゥウウウウウ……イヤァァァアアアアア!」

「くそっ」

竜也と平吉郎は歩を早めると植え込みの中を左手に回り込んだ。座敷の周囲は広縁がぐるりと取り囲み、やはりガラス戸が嵌められている。

「おいっ!」

平吉郎が小さく叫んだ。

指さしたほうを見ると、広縁の内側の大きな四枚障子のうちの左の二枚が開け放たれてい るではないか。二人の芸者の後ろ姿がはっきりと見えるし、床の間を背に東親分と相模屋の姿も、さらに斜めにだが座敷の入口付近まで見渡せ、4,5人の若い衆が座敷内をうろうろしているのが見える。

これは好都合である。座敷の中を直接見ることが出来れば敵の人数を正確に見積もることができる。

二人は腰を屈めたままでさらに茂みの中を進み、真っ直ぐに座敷の中を見通せそうな位置にまで来た。

再び闇をつんざくようにお龍の泣き叫ぶ声がした。

竜也は唇を噛んだ。

この位置からであれば、先程後ろ姿の影しか見えなかった4人のヤクザ達をはっきりと見ることが出来るだろう。しかし同時にそれはお龍が科せられている凄惨な責めを目撃することにもなるのである。

お龍姉さん、許してくれ!

ゆっくりと少しだけ腰を伸ばすように木陰から顔を出した竜也の目にまず飛び込んで来たのは、眩いばかりのお龍の裸身であった。

ついさっき西親分と一緒に会ったばかりのお龍が一糸纏わぬ全裸に剥かれ、両手を後ろで縛られて若い 衆に跨らされているのである。しかもお龍の両足は若い衆の腰に巻きつけられ足首を交差させて縛 られている。きつく抱かれているお龍の豊満な胸は押し潰され、優美な夜会巻きの髪は無残に乱れて長時間に渡った執拗な責めを物語っている。

そして壮絶な責めとは正反対に粋な調子の三味線が鳴り響き、芸者衆が甲高い声で長唄を歌っている。

竜也の想像を裏付けるように、若い衆の前には会席膳が置かれ、ちょうどお龍の尻の下辺りには小さな小鉢が置かれていた。

あの中に排便させられるのか?あんな小さな小鉢に。

いや、お龍が跨っているのは四人のうちの二番目の若い衆だ。ということは少しずつ四回に分けて排便させられているのか?一体全体そんなことが可能なのか?もし可能だとしても、宴会の席でそんなことを強制させられているお龍 がどれほど恥ずかしい思いをしていることか?

竜也は怒りにわなわなと身体が震えるのを感じた。しかし同時に、竜也の一物がはっきりと固さを増したのである。いくら頭では否定しようとしても、竜也の肉体はお龍が排便するところを見たいと願った。

お龍姉さん!

突然お龍が仰け反り、口を大きく開けて叫んだ。

「イヤァァァアア……」

そして、すぐに頭を左右に振りながら、まるで快感を必死に堪えるように歯を食いしばったのである。

声こそ聞こえないが、それはまさに排便のために息んでいる姿である。

やっぱり排便を強制されているのか?

でもどうして快感を耐えるような顔を?

お龍の向こう側に着物姿の小柄な女が立ってお龍に何か言っている。

お龍姉さん!何をさせられてるんだ?

竜也には想像も付かなかった。

「……クククゥゥゥゥ」

まさに絶頂を極めようとするお龍の呻き声が響いた。

姉さん!

再びお龍が仰け反り、 「イヤァァァアア……」と叫んだ。

そして必死に歯を食いしばり、頭を左右に激しく振りながら何度も息んだ。

中腰のままの 竜也はいつの間にか木の枝を握りしめ、瞬きもせずにお龍を、いやお龍の裸身を、いや、はっきり言うとお龍の尻を見つめていた。

尚もお龍は激しく頭を振りながら息んでいる。そして急に仰け反ったかと思うと、まるで怪鳥のような声を上げたのである。

「ギィィヤァァアアアアーーーーー」

大きく開けた口を天井に向けてお龍は叫び、次第に声が小さくなって消えた後もまるで快楽の余韻に浸るように何秒間かはそのままの格好でいたが、突然「クククゥゥゥゥ……」と呻きながら頭を垂れてヤクザの肩に顔を埋めた。

竜也にはお龍が排便したのかどうかは分からなかった。一瞬何かが尻から落ちたような気もしたが、定かではなかった。

着物姿の女がニヤニヤと笑いながら何事かお龍に言った。そしてしゃがんでお龍の尻の下に置かれた小鉢へ手を伸ばし、何か 白いものを拾って周りのヤクザ達に見せると一同がどっと沸いた。

「何だ?」と竜也が呟いた。

「卵だ。それも特大の」と平吉郎が呻くように言った。

卵を産まされてたのか!

「あと二個だよ、お龍さん」

誰かが叫ぶとあちこちから笑い声が起きた。

一人の若い衆がお龍の足を括っていた縄を解いたが、気を失っているのかお龍の足はだらんとしたままで、踏ん張る気配も無い。次に両側から別の二人 の若い衆が現れて、お龍を抱えるように立ち上がらせようとすると、気がついたお龍はさかんに抵抗しているようだが、無理矢理に立ち上がらされたお龍は、仰け反りながら「イヤァァァアア……」 と叫んだのである。

身を捩りながらお龍は抵抗するが、後手に縛られた裸身を二人のヤクザに両側から抱きかかえられていてはなすすべもなく、両足を開いたままのあられもない姿を今までずっとお龍を抱いていたヤクザのすぐ目の前に晒しているのである。

やっとお龍が落ち着くと、抱きかかえられたままズルズルと引きずられるように後ろに下がらされた。しかし座ることも着物で裸身を隠すことも許されないようで、ふらつく身体を両側から抱きかかえられたままである。

着物姿の女が何事かお龍に言うと、お龍は頷き、何事か言い返した。すると着物姿の女が後ろを振り返って何事か言い、すぐに仲居と思しき女が湯飲み茶碗を持って現れ、お龍の唇に付けるとお龍は一息で飲み干した。

仲居が下がり、着物姿の女が再び何事か言うと、お龍を両側から抱きかかえていた若い衆が離れた。

「あと二個だよ、お龍さん!」

再び誰かが叫び、座敷中がドッと沸いた。

お龍はゆっくりと頷くと、後手に縛られた裸身をまるで皆に見せつけるようにまっすぐに伸ばし、さっきのヤクザの右側でやはり下帯一つの裸になって座っている男の方へ歩きはじめた。

「源太だ」

平吉郎が呟いた。

源太というヤクザは巨漢でしかも身体中毛むくじゃらである。

あいつに抱かれながら、また卵を産まされるのか……。

竜也は両手を握りしめた。

「竜也、行こう」

平吉郎が囁いた。

竜也は目を瞑った。

そうだな。ここで見ててもお龍姉さんを助けることは出来ない。早く援軍を連れて戻って来ないと。それまで辛いだろうが我慢してくれよ、姉さん。

「フゥー」と息を吐いて目を開けると竜也は頷いた。

二人は身体を低くすると植え込みの間を進んだ。

「…ァァアアアア」 とお龍の喘ぎ声が聞こえたが、竜也は歯を食いしばって耐え、さらに進むと木戸にぶつかった。さっき玄関の横にあった木戸であろう、太い閂が掛かっている。

これではビクともしないはずである。

平吉郎が閂を外そうとしたが、竜也が止めた。

閂を外してしまえば、もし見張りが回ってくればすぐに分かってしまう。そうではなく、閂を少しずらせて二つの閂鎹(かんぬきかすがい)の一つからぎりぎり外すだけにしようと言うのだ。

竜也がやって見せると平吉郎も頷いた。

これならちょっと見ただけでは分からないし、しかも表から思いっきり体当たりすれば簡単に開くはずである。

二人は顔を見合わせて頷くと木戸塀にそって庭の隅まで行き、外の様子を確認してから塀をよじ登って外へ出た。


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