肛宴のお龍

13.反逆

廊下を引き立てられながら、今しか機会は無いと私は思いました。後ろの若い衆はさっき少し乳房を押し付けてやっただけで、もういい気分になっているし、前にいるのも似たようなものでしょう。 彼らを始末するのは容易いでしょうから、後は東組の重鎮を人質にすれば。

その時、向こうから鉄二が来たと思ったら、私たちの直ぐ手前で引き戸を開けて中に消えました。

私は咄嗟にふらついた振りをしました。

「あぁぁ、また脚が」

案の定、後ろの若い衆が私を抱きしめてくれましたので、私は若い衆に寄りかかりながら、袖の中から簪を取り出し、後手を縛った縄を切り始めます。

「大丈夫かい?お龍さん」

前の若い衆も振り向いて戻ってきます。

「あぁ、御免なさい。ちょっとふらついてしまって」

そう言いながら足元がおぼつかない振りをして脚を拡げ、膝から太腿の中程までを露わにして、前の若い衆の視線を引き寄せます。

「ちょっと休憩していけばいい」

後ろの若い衆がそう言いながら肌襦袢の上から私の身体をまさぐりますが、私はされるがままにしています。そして身体を預けながら、「いま鉄二さんが入られたのは?」と尋ねると、「あそこは便所だよ」と教えてくれました。

まさに絶好の機会です。

「でも私は使わせてもらえなかったのね」と若い衆に一層寄りかかった時、ちょうど後手を縛った縄が切れました。

「可哀想になあ、あんな格好でさせられてよ」と若い衆は益々私を強く抱きしめてくるので、私はもう完全に身体を預け、さらに自由になった手で肌襦袢の裾を引っ張って、太腿の付け根までを露わにすると、前の若い衆の目が釘付けになります。

今です。

「あぁぁ」と喘ぎながら私はその場に崩れ落ちる振りをしました。

そして、「大丈夫か」と後ろの若い衆が覗きこんだ時、顎の付け根から斜め上に、脳幹をめがけて簪を突き刺したのです。

悲鳴を上げることもなく、多分痛みを感じることもなく、若い衆は絶命しました。

「どうした?」と前の若い衆が駆け寄ります。私は前襟を掴むとその場に頭から引き落とし、後頭部からやはり脳幹をめがけて簪を突き刺しました。

悲鳴も上げずに、ドサッという音を立てて若い衆は倒れました。

私は脚を括った縄を切り、先程からずっと私のアヌスに微妙な快感を送り続けていた鞘を取り出しました。 一旦は髪に刺そうかと思いましたが、鞘だけの簪では今からの立ち回りで失ってしまうかもしれず、肌襦袢しか身に着けていないので仕舞っておくところも思いつきません。そうかと言って 懐剣と一緒に将吉親分から頂いた大事な仕掛け簪の鞘を捨てる訳にもいかず、私は口に含んで唾液を付けるともう一度アヌスに挿入し、急いで立ち上がりました。

厠の前まで行って中の様子を引き戸越しに伺うと、幸い鉄二はまだ放尿の真っ最中のようです。ガラッと引き戸を開けると、こちらを向いた鉄二の顔が驚きと恐怖で引き攣りましたが、排尿中なので咄嗟の構えが取れません。

「お龍!」と鉄二が叫んだ時には、私は既に鉄二の両手を後ろに捻り上げていました。そして私の首縄を外して鉄二の後手を縛る間も排尿は止まらず、「やめろ、やめろ」と喚きながら、鉄二は小便をあちこちに撒き散らしたのです。

「うるさいんだよ」

私がそう言いながら簪を少しだけ鉄二の喉に突き刺すと、「ひぃっ」と言ったっきり大人しくなりました。簪が刺さったところからは血がポタポタと落ちています。

やっと排尿が終わったので、私はそのまま鉄二を厠から連れ出しました。

「こ、こいつらはお前がやったのか」

「死んだことも気づかないうちに地獄へ落ちたよ。あんたも抵抗すると一刺しだよ」

そう言って私が簪を少し動かすと、鉄二は「や、やめてくれ」と言って、身体をガタガタと震わせます。

そして鉄二の後手を掴んだまま、座敷へ案内させたのです。


お銀達が座敷に戻って花台の周りで次にはお龍にどんな詫びを入れさせるかを相談していると、 「た、助けてくれ」と呻きながら、喉に簪を突き立てられた鉄二が、お龍に引き立てられて入ってきた。喉からは血がポタポタと流れ落ち、着物が赤く染まっている。

「あっ、その簪は」

しまったという顔をしてお銀が叫んだ。

「お銀さんともあろう方が、私の身体に押しこんだまま忘れるなんて、とんだへまをしましたね」

お龍が勝ち誇ったように言った。

「後門に入れたままだったのか」と親分が言った。

「すいません、親分さん。許しておくんなさい、鉄二さん」

お銀がその場に土下座して謝った。

その時、廊下をドタドタと走る音がして若い衆が「ヤスとカメがやられました。奥へ運びましたが、二人共意識がありません」と言いながら駆け込んできた。

「悪いけど、若い衆二人には地獄へ行ってもらったよ。鉄二もいつでも後を追いかける準備は整ってる。この簪をあとほんの何センチか押しこむだけで、痛みもなく、それこそ自分が死んだことにも気づかずにね。さあ、お嬢様を返してもらいましょうか」

親分は歯がゆそうにしばらくお龍を睨みつけていたが、鉄二の方を向くと、

「馬鹿者めが、何をやってるんだ、鉄二。しかもその格好は何だ。裾が肌蹴てるし、下帯まで緩んでるじゃないか」と険しい顔で叱った。

「し、小便をしてるところを襲いやがって」

「小便くらい我慢しておけ。さっきお龍に散々我慢させたところだろう。少しはお龍を見習え!」

「そんなこと言われても、ヤスとカメが二人で、それも後手に縛ったお龍を連れてたもんでつい」

「馬鹿者!」

そう叫ぶと親分は立ち上がって奥へ入りかけた。

「親分さん、親子喧嘩はそれ位にしてお嬢様を返したらどうですか」とお龍が言った。

「鉄二が欲しいならくれてやる。その簪で一突きにしてもいい。でもお京は返さん。お京の身代わりはお前だけだ」

そして「お京を連れて来い。今から花台の上で侘びを入れさせてやる!」と非常な剣幕で怒鳴ると、襖を開いた。

格子戸の向こう側ではお京が後手に縛られて若い衆に縄尻を掴まれていた。

「お京を素っ裸にして花台に載せろ」

親分が命令すると若い衆が赤黄八丈の着物姿のお京を座敷に引きずり込み、帯を解き出した。

「あっ、いやぁ」

お京は身体をもがくが後手に縛られていては抵抗のしようもなく、あっと言う間に帯は解かれ、着物も肩から降ろされた。

「鉄二がどうなってもいいのかい!」

お龍の叫びには焦りが感じられた。

「好きにしろ。そんなへまをする奴は息子じゃない」

親分は鉄二の方を振り向きもせず、自らお京の伊達締めを解きはじめた。

「あっ、いやぁ、止めて下さい」

「これでもか!」とお龍が叫びながら簪を少し深く刺し込むと、鉄二が「アァー」と叫んだが、親分は見向きもしない。

そしてお京の後手の縄を解くと、引っかかっていた着物を脱がせ、長襦袢も一気に剥ぎ取った。

そして素早くもう一度後手に縛り直すと、肌襦袢だけを身に纏ったお京を軽々と抱き上げて花台の上に載せたのである。

「脚を固定しろ」

若い衆達がお京の足を拡げると手際よく花台の脚に括りつけた。すると親分はお龍の方を見て、「未だいたのか。お龍よ、目障りだから鉄二を地獄にでもどこにでも連れて行ってくれ」と言ってお京の肌襦袢の紐を解き始めたのである。

「あっ、いやぁ」とお京が叫んだのと、「止めなさい」とお龍が叫んだのは同時だった。

そしてお龍は鉄二の喉から簪を抜くとその場に投げ捨て、鉄二を後手に縛っている縄を離した。

「親分、俺を見捨てたのか」と鉄二はその場に泣き崩れた。そして「誰か、早く医者を呼んでくれ、血が止まらないよ」と喚くと、若い衆が何人かが抱き起こして、喉の傷口に手拭いを当てた。

「親分さんの勝ちだよ。私が身代わりになるからお嬢様を離しておくれ」

お龍はそう言うと両手を後ろに回し、若い衆がすぐに縄を掛けると、座敷の中は静まり返った。

「流石ですな、親分」

相模屋が沈黙を破るように口を開いた。

「お龍は人質の鉄二さんを殺せない。何故なら殺した瞬間に人質を失うわけですからな。親分はそこを見ぬいておられた。しかも親分はお京という人質を手にしている。この人質は殺す必要もなく、ただ人質にしておくだけで価値があるんです。だからそもそもお龍さんには勝ち目は無かったんですな。まあ鉄二さんはちょっと痛い目にあったけれど、これは大変有意義な経験だったと思いますよ、ねえ親分」

相模屋が親分の方を見ると、親分は「まあな」と言って笑った。

「親分、そうだったのか」と鉄二が言った。

「まあ、気にするな。こういうことは経験が大事だ」と親分は答えると、周りを見渡して、「どうせヤスとカメもお龍の色気に誑かされたんだろう。お前たちも気を抜くと、あっと言う間に地獄行きだぞ」と若い衆に喝を入れた。

「ヘイ」、「ヘイ」とあちこちから返事が上がった」

「さて、ちょっと予定が狂ったが、そろそろ、お龍に詫びの続きをさせないとな。お京は降ろしてやれ」

親分は表情を和らげるとお銀の方を見た。

そして若い衆達がお京の脚の縄を解いて下ろすと、強張った顔をしていたお銀が、二三度深呼吸をしてからお龍の方を向いて言った。

「さあ、お龍さん、 もう一度この懐かしい花台に乗るんだよ。今度はたった今の狼藉振りも合わせて一層丁寧に詫びを入れてもらうから、気を引き締めて頑張りな」

お銀が妙に真面目な顔で言ったので、親分も相模屋も腹を抱えて笑った。 そして 若い衆が二人がかりでお龍を抱き上げて花台に仰向けに載せると、「あとは相模屋さんお願いしますよ」とお銀が言った。


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