エピソード III〜 静子

5.ケイト

慌てて身体を拭き、ジーンズとTシャツに着替えて1階に下りて来た静子でしたが、ロビーの片隅にあるうす暗いバーから聞こえてくるすすり泣くようなトランペットの音色 が、まるで今夜起きることを予兆しているような気がして、気持ちが 益々高ぶるのでした。

カウンターの真ん中で真っ赤のミニドレスの女が一人、バーテンダーと何やら話し込んでいます。

「ケイト、お待たせ!ついついシャワーが長くなっちゃって」

平静を装って 静子が元気に声を掛けるとケイトは振り向くなりハイチェアーから降り、両手を大きく拡げて静子を 招きます。胸が大きく開いたドレスから豊かな乳房がこぼれそうです。小柄なケイトの両腕の中に静子が身体を滑り込ませると、 大きく開いていた両腕がまるで獲物を捕らえるように閉じ、ケイトの突き出た胸が静子の乳房を押しつぶさんばかりに迫ってきます。

心の底のどこかで待ちわびていたこの瞬間がついにやってきたのだと思うと、思わず 涙が零れそうになると同時に、先ほどから身体の奥底でちょろちょろと燃えていた種火が一気に燃えあがったようで、静子は身体がブルッと震えるのを止められませんでした。

バスルームから出た後に丁寧にティッシュで拭ってから下着を着けたのに、少し上気した頬にケイトの唇が触れ、懐かしい匂いに包まれながらギュッと抱きしめられると、先程とは比べものにならない程の愛液が流れ ます。

負けじと静子もケイトを抱きしめて頬に口付けをします。そして、 このままキッスをしたいと思った瞬間、ケイトがゆっくりと身体を離しました。

「カウンターでいい?」

声が上ずりそうになるのを何とか押さえながら静子は返事をします。

「いいわよ」

二人は身体を寄せ合うようにハイチェアーに腰を下ろします。

「私はビールを注文したところよ」

ケイトが静子をじっと見詰めながら言います。

「じゃあ私もビールを戴くわ」

少し落ち着いてきた静子は、そうバーテンダーに告げると左を向いてケイトを見詰めます。

「ケイト」

静子はコージとのことを言い出そうと思いましたが、切っ掛けがつかめません。

するとケイトが逆に別れたボーイフレンドのことを話しはじめました。

「彼とはね、結婚すると思ってたのよ」

「そうだったの・・・、去年会った時は一緒に住んでたのでしょう?」

「そう。すぐに結婚すると思ってた。でもうまく行かなかった、先週のことよ」

「まあ!」

静子はケイトも哀しみを抱えたままこの会議に来たことに驚き、ケイトの肩に左腕を回して軽く抱きしめました。ケイトの豊満な乳房がドレスを揺らします。

「ありがとう、静子。でも、もう大丈夫よ」

二人の前にビールを満たしたグラスが二つ、カタンと音を立てて置かれました。

静子は右手でグラスを掴むとケイトの方に差し出します。ケイトもグラスを掲げると二人は軽くグラスを合わせ、「再会に乾杯!」と言ってから、ゴクンゴクンと音を立ててビールを喉に流し込みます。

「そういえば」

ケイトはグラスを置くと、静子の方に身体を捻り、大きく脚を組みます。短いドレスがずり上がって形の良い太腿がかなり露わになります。

静子も身体を少し左に捻り、ジーンズに包んだ脚を組みます。

「そういえば?」

ケイトは右手を伸ばすと静子の膝に置きます。

「ロバートと別れた夜も、静子が慰めてくれたわね」

「そうだったわね」

静子も左手をケイトのストッキングを穿いていない膝の上に置きます。

「何だか、私が辛い時はいつも静子が居てくれるみたい」

「私で出来ることなら何でも言ってね」

「ありがとう、静子。それで、静子はコージとはうまく行ってるの?今年はコージは来てないみたいだけど」

「それがね・・・」

やっと切っ掛けが掴めたとホッとして話しはじめた静子でしたが、パロアルトのコンドで見たことを話すうちに、胸が一杯になって話を続けられません。

「そんな酷いことって」

ケイトは静子の肩を抱き、もう一方の手で頭を撫でてくれます。

「無理に話さなくてもいいのよ」

「ありがとう、ケイト」

「ここじゃ余り落ち着かないから私の部屋へ行かない?」

まるで静子の気持ちを見透かしているかのようなケイトの言葉に、静子は息を呑みました。でも気付かれないように、ちょっと考える振りをしてから静子は言いました。

「そうね」

ケイトはバーテンダーにキャバルネのボトルを一本、自分の部屋に持って来るように告げ、静子を抱きかかえるように椅子から降ろします。

「御免ね、ケイト」

「いいのよ、静子。今日は私が慰めてあげる番よ」

エレベーターに乗り込んだのは二人だけでした。古いエレベーターがゆっくりと7階まで昇る間じゅう静子は躊躇していました。いえ、実際には躊躇していると自分に言い聞かせていただけで、既に気持ちは決まっていたのです。それでも、エレベーターが7階に着いて、自分の部屋が、そしてその隣のケイトの部屋が近づいてくると、今なら未だ『やっぱり私は自分の部屋へ帰るわ』って言えば何も起きないのよ、と少し迷いが出てきたのです。

そんな静子の気持ちを知ってか知らずか、ケイトは静子の部屋のドアには目もくれずに真っ直ぐに自分の部屋の前まで進むとカード・キーを差込み、あっという間にドアを開けます。

「さあ、入って」

静子はチラッと自分の部屋のドアに目をやりましたが、迷いを振り払うように首を振って長い黒髪をさっと翻すとケイトの部屋に足を踏み入れました。

「直ぐに片付けるから、ソファーに座ってて」

ガチャリとドアの閉まる音がします。ベッドの上には服や下着や化粧道具などが散乱しています。

「あまり見ないでね」

ケイトは笑いながらそれらを掻き集めるとスーツケースに放り込んでいき、静子は微笑みながらソファーに腰を下ろします。

「ちょっと着替えるわね。ドレスが皺になるといけないから」

ケイトはピンク色のTシャツを掴むとバスルームに消えます。そして直ぐにショーツも穿かずに襟ぐりの大きく開いたTシャツだけの姿で出てくると、今まで着ていたドレスをクローゼットに掛けます。Tシャツは少し丈が長い目ですが、それでもぎりぎりお尻が隠れる程度で すから、太腿は付根まで殆ど露わです。

「静子も着替える?Tシャツなら貸してあげるわよ、それともバスローブ?」

「私は大丈夫。もうこんな格好だから」

確かに静子は先ほどからTシャツとジーンズ姿です。それに今ここでそれらを脱いでバスローブに着替えるのは、幾らなんでもはしたないと思いました。

チャイムが鳴り、立ち上がろうとする静子を制して、Tシャツを着ただけのケイトがドアに向かいます。

「ケイト、あなたの格好!」

ケイトは一度振り返るとニッコリ笑ってドアを開けます。キャバルネのボトルとワイングラスを二つ、それにミックスナッツを盛った皿をお盆に載せ た黒人の若者は、ケイトの格好を見て一瞬驚いたようですが、直ぐにニッコリ笑うと部屋に入ってきます。

「そのテーブルに置いて頂戴」

若者はお盆ごとテーブルに置くと、「栓を開けましょうか?」と尋ねます。

「お願いするわ」

ケイトはそう言うと静子の隣に腰を下ろして脚を組み、若者は微笑みながら慣れた手つきでコルクを抜くと、ケイトの前に置かれたグラスに少しだけ注ぎます。

ケイトは右手でグラスを摘まむと、勢いよく回転させてから美しい鼻を近づけ、 胸を反らしながら気持ち良さそうに香りを吸い込みます。豊満な乳房の揺れ具合からケイトがブラを外したことは明らかです。

「いい香り」

ケイトはそのままグラスを傾けると、キャバルネを口の中に含み、そしてゆっくりと喉の奥に送り込みます。

「結構だわ」

ケイトがテイスティングしている間、じっとケイトの太腿から胸に視線を走らせていた若者はニッコリ笑うと、静子のグラスに半分程ワインを注ぎ、そしてケイトのグラスにももう一度半分程注ぎます。

「他に必要なものは?」

「結構よ」

「ではごゆっくり」

若者はそう言うとチェックを差し出しながらまたもチラリとケイトの太腿に視線を走らせています。そしてケイトがサインしたチェックを受け取ると、もう一度ニッコリ笑って出て行きました。

ドアがガチャリと閉まると、しばらく黙っていた静子が口を開きます。

「ケイト、大胆ね。そんな格好でルームサービスを部屋に入れるなんて」

「あら、そんなに大胆かしら?家ではいつもこんな格好よ。それより、もう一度乾杯しましょう」

二人はそれぞれグラスを手に取ると軽く合わせ、互いに相手を見詰めあいながらワインを口に流し込みます。

「美味しいわ」

静子が溜め息を付きながらグラスを置きます。

ケイトはグラスを持ったまま静子に顔を近づけて来て、頬に軽く唇を触れさせます。

「続きを話せる?」

場所を変えた所為でしょうか。それともケイトが大胆な格好のままルームサービスを部屋に入れた所為でしょうか。静子は先ほどよりは随分楽な気持ちになっているのに気付きました。

「ええ、話せると思う」

今にも唇と唇が触れそうな程に顔を寄せているケイトに見詰められながら、途中、何度もワインで喉を潤しながら、静子は全てをケイトに打ち明けました。 話の合間に静子がワインを口に含むと、ケイトも待ちかねていたようにグラスに口を付け、ゴクンと飲み干すとそのまま静子の頬に唇を触れさせるのです。どちらかのグラスが空になると、直ぐにケイトが注いでくれるので、静子が話し終える頃にはキャバルネのボトルはほぼ空になっていました。

静子はもう言葉に詰まることも、涙が流れることもありませんでした。それどころか、コージとセックスをしても全く感じなくなったこと を話している時には、これではまるでケイトと愛し合いたいと誘っているようなものだわと、顔が熱くなり、胸がドキドキしたのです。

そして静子の期待に応えるかのように、ケイトは自分のグラスを置くと、静子が右手に持っていたグラスも取り上げてテーブルに置き、静子の目をじっと見詰めながら顔を近づけてきます。

「静子、私に愛させて」

ケイトの熱い吐息が静子の唇にかかり、一瞬静子の身体が強張りましたが、直ぐにケイトの熱い唇が重ねられると静子は目を瞑って軽く唇を開き、その間から侵入してくるケイトの熱い舌に自分の舌をからませるのです。

「ムゥ」

ケイトは静子の舌を吸いながら身体を半回転させると、ソファーの背に両手を付き、静子の身体を両脚で挟むようにソファーに膝を付いて、そのまま静子の揃えた太腿の上に腰を下ろします。

静子の右手が恐る恐るケイトの胸に伸び、Tシャツの上から柔らかな乳房に優しく触れると、ケイトが感極まったような呻き声を上げます。これに自信を付けた静子が左手でもケイトの乳房を愛撫すると、ケイトは「ムゥ、ムゥ」と喉の奥で呻きながら腰を揺らし 、静子の上で身体をくねらせるのです。

「もう駄目」

ケイトは唇を離すと、そのままズルズルと身体を滑らせて絨毯の上に正座をし、上気した顔を静子に向けます。そして静子のジーンズの前を止めているボタンに手を掛けると、じっと静子の目を見詰めるのです。

『いいでしょ?』

言葉には出さなくてもケイトがそう尋ねていることは静子には分かります。そして静子がコクンと頷くと、ケイトの目が一層妖しく燃えあがり、両方の手が蠢くと静子のジーンズのボタンが外れ、ファスナーが下ろされます。そして熱い息を吐きながら静子が腰を浮かせると、太腿からヒップにピタリと張り付いていたジーンズが、まるで皮を剥ぐように脱がされるのです。

静子の黒いTシャツはお臍のすぐ下までの丈なので、ジーンズを脱がされてしまうと下半身を覆うのは黒のレースの極小のTバックだけです。

『ああ、さっき綺麗に剃っておいて良かったわ』

静子は益々荒い息を吐きながら、手で前を隠そうともせずにケイトにじっと見詰められています。そしてしばらく静子の肢体を観察していたケイトは、立ち上がって両手を前で交差してTシャツの裾を掴むと、一気にTシャツを捲り上げて頭から 脱いでしまったのです。

ワインの所為かピンク色に染まったケイトの裸身を突然目の当たりにして静子は息を呑みます。見事な隆起を見せる乳房が目の前でブルンブルンと揺れています。そして視線を落とすと、 下半身は真っ白なレースのTバックが辛うじて局部を覆っているだけです。

「脱がせてあげる」

ケイトは再び静子の身体の両側に膝を付くと、Tシャツを捲り上げて頭から抜いてしまいます。これで静子の上半身を覆うのはレースで縁取られた黒のブラジャーだけです。

静子は大きく胸を上下させながら、じっとケイトを見詰め、コクンと頷きました。そしてケイトの両手が背中に回ると、ブラを外しやすいように少し身体を反らすのです。

胸を締め付けていたものがフッと無くなると、次の瞬間にはブラジャーが抜き取られ、静子は思わず両手で胸を覆います。しかしケイトに両手を握られてそのまま万歳するように頭上に引き上げられても静子は抵抗しません。そして再びケイトの唇が静子の唇を奪い、ケイトの乳房が静子の乳房に合わせられるのです。

『ああ、何て柔らかい乳房なの』

静子は自らの乳房でケイトの乳房を愛撫するように夢中で身体をくねらせます。時折、ケイトの勃起した乳首がやはり固く なった静子の乳首に触れると、余りの快感に静子は「ハァ」と喘いでしまい、その度に下着が濡れるのが分かるのです。

突然ケイトが動きを止め、唇が離れます。

「もう我慢できないわ」


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