エピソード III〜 静子

4.淫夢

「コージ!」

自分の声で目を覚ました静子は未だ胸がドキドキしています。しかも下着が濡れているではありませんか。

岡田夫人の浮気の光景が瞼に浮かんでなかなか寝付けなかった静子でしたが、今しがた見た夢の主人公は静子自身でした。

女性上位の体位で狂おしく裸身をくねらせておられる岡田夫人に後から近づくと、組み敷かれてベッドに仰向けになって髪を振り乱しているのが静子だったり、或いは全裸の静子と抱き合い唇を吸い合っているブロンドの女がこちらに顔を向けるとケイトだったり、果ては静子が黒髪の若い男性と抱き合っていたのです。

自分のベッドの上で全裸の静子がこれも全裸の若い男を抱きしめています。舌を吸い会いながら上になったり下になったり、ベッドの上を転がりながら男の裸身を静子の両手がまさぐります。

突然寝室のドアが開くと、そこに突っ立っているのは日本へ出張している筈のコージではありませんか。

「コージ!」と叫んだ途端に目が覚めたのです。

『岡田夫人があんな話をされたからだわ』

時計を見るともう朝の9時です。静子はベッドを出ると熱いシャワーを浴びて気持ちを鎮めました。借りていたガウンを羽織ってキッチンへ行くと、岡田夫人が朝食の準備中です。

「もう起きたの、静子さん。もっとゆっくり寝てればいいのに」

「もう十分休ませていただきました。少し気分も落ち着きましたから今日は家に帰ります」

「あらそう?もっとゆっくりして行ってもいいのよ。そうそう、さっきコージさんから電話があって、もう少ししたら何か持ってくるって」

「何かって?」

「さあ、何かプレゼントじゃない?お詫びの印」

「そんなもの」

「そんなもので騙されないわよっていう顔ね。でも貰えるものは貰っておきなさい。もちろん未だ気持ちの準備が出来てなかったら会わなくてもいいのよ、私が預かっておくから」

朝食を戴いてからお化粧をしている時にコージがやってきましたが、静子は顔を出しませんでした。コージはしばらく岡田夫人と話をしていて、時折、夫人の驚いた様な声がしましたが、長居をすることなく帰っていったようです。

「もう帰ったわよ。いつでも見にいらっしゃい。プレゼントがあるわよ」

「今、行きます」

静子は岡田夫人に借りたジーンズに足を通しながら返事をします。プレゼントなんかで騙されるものかしらと思いながらも、一体コージが何を持ってきたのか少し静子は気になりました。

リビングへ行くと岡田夫人が立ち上がって玄関のドアを開けます。

「こっちよ」

「外に置くものですか?」

「置くものではないけど・・・まあ早くいらっしゃい」

夫人に付いて玄関を出ると岡田夫人はさらに門の外へと出て行かれ、立ち止まると静子の方を振り返ります。

「ここまでいらっしゃい」

そして静子が門を出ると、「ホラ、あれよ」と岡田夫人が指差したのは、朝日を浴びて輝く美しいスポーツカーではありませんか。

「メルセデスベンツ SL500。それも私の好きな小豆色の」

静子が呟きます。

「いつか乗りたいわねって言ってたそうね」

「ええ」

しかもその美しいボディには真っ白な大きなリボンが掛けられ、屋根の上には特大の蝶々結びが乗っかっています。

「なかなかやるわね、コージさん。私の主人もSLは買ってくれなかったわ。はい、これがキー。あなたの車は置いておけば後で取りに来てくれるそうよ」

『コージったら、こんなことしなくても私は帰ろうと思ってたのに。でも嬉しいわ、私の好きな車、覚えてくれてたのね』

静子はキーを受け取ると家の中に入って帰り支度を始めました。

* * *

『車を貰ったから帰るわけじゃない』

いくらそう言い聞かせても、V型8気筒5リットルのエンジンを積んだ2人乗りのロードスターのトップを開けて走らせ始めると、思わず気分が高揚してしまうのを静子は抑えることができませんでした。ハリウッドの家に着く頃には、静子は早くコージに車のことを報告しなければと思った程です。

しかし幸か不幸か、玄関を開けて出てきたコージの姿を車の中から見た途端に、そんな静子の気分は吹き飛び、あの日パロアルトの家で見た光景がありありと蘇ってきたのです。

神妙な顔つきで車のドアを開けるコージとは目も合わせずに、静子は俯いたまま車を降りると助手席に置いてあったスーツケースを下ろし、手を貸そうとするコージを制止するように家の中に運び込みます。そしてそのまま階段を上がると寝室に閉じこもってしまったのです。

追いかけてきたコージがドアの外から話しかけます。

「静子、済まなかった。二度としないと誓うよ。だから出てきておくれ」

「向こうへ行って!声も聞きたくないわ」

自分でも驚くような大声で叫ぶと、静子はベッドにもぐりこんでしまいました。涙がボロボロと零れ、静子は枕に顔を埋めてワーワーと声を上げて泣きました。

ふと目が覚めると辺りは薄暗くなっています。泣いているうちに眠ってしまったようです。そして自分のベッドで思いっきり泣いた所為か、少し気持ちが落ち着いたようです。

『あれは浮気なのよ』

岡田夫人の顔が浮かびます。

『浮気なのね、コージ。ただの浮気だったのね』

少しドアを開けて様子を伺うと、キッチンから物音がします。静子はバスルームでメイクを直すと、ゆっくりと階段を降りて行きました。

* * *

その夜以来、コージはしばしば夕食を作るようになりました。と言ってもコージの作るものは、野菜炒めなどの中華やカレー、そしてスパゲティ位ですが、一人暮らしが長かった所為でしょう、結構手際は良いし味も中々いけるのです。静子はあの女のことについては一切聞きませんでしたし、コージもあの日のことは何も話しませんでした。まるで二人共あの出来事は悪夢であって、時が経てば記憶の彼方に消えてしまうと願っているようでした。

仕事の上では二人の関係はすぐに元通りに戻ったようでした。オフィスでは今までどおり喧々諤々の議論をしたかと思えば、額をくっつけんばかりに顔を寄せ合って資料を覗き込み頭を捻ったり、或いは皆と仲良くランチに出かけたり、誰も二人の間に 問題が起きたなんて想像もしませんでした。

しかしセックスだけは別でした。あの日以来二人は別々の寝室で寝ていましたし、さすがに二三週間の間はコージも静子を誘うことはなかったのですが、ひと月ほど経ったある夜、二人ともワインを飲んで良い気持ちになっていたはずなのですが、コージの誘いを静子は断ったのです。

「コージ、御免なさい。私、まだそんな気になれないの」

コージは無理強いをすることなく直ぐに諦めて、「じゃあ、もう少し飲もう」と笑いました。

そしてそれからまたひと月程が経ち、再びコージが誘った時には静子は コージを受け入れ、二人は二ヶ月ぶりに肌を重ねたのです。しかし静子の身体が燃え上がることはありませんでした。もちろんコージも静子の反応が無いことには気付き、ありったけのテクニックを駆使したのですが、結局は自分だけが射精して終えたのでした。

それからはコージは週に一度は静子を求め、静子も応じたのですが結果は同じでした。そして季節が夏になっても二人の関係には進展はありませんでした。

その頃、静子は毎年夏にボストンで開かれるベンチャーの会議に出席することになりました。いつもはコージと一緒に行くのですが、今年はコージの都合が付かず、静子一人で行くことにしたのです。この会議は沢山のベンチャーの経営者と直接話ができる他、普段顔を会わせることの少ない 東海岸のベンチャーキャピタリストとも会えるし、MBA時代の友人とも再会できるチャンスなので、静子は毎年とても楽しみにしていたのです。 特に今年はコージとの関係がギクシャクしていたこともあり、静子は格好の気分転換になると期待していたのです。

ロサンゼルスからボストンへは直行便でも5時間半もかかります。昼過ぎの便に乗っても東海岸時間は3時間早いので、会議場でもあるホテルに着いたのは午後10時過ぎです。

「やっと着いたわ」

呟きながらロビーに入ってチェックインの列に向かって歩いていた静子は、列の最後尾に知った顔を見つけて急に元気が出てきました。

「ケイト!」

「まあ、静子!」

「やっぱり来てたのね、元気だった?」

「とっても元気よ、静子は?」

二人はギュッと抱き合い、ヨーロッパ式に互いの頬を二度三度とくっつけます。 懐かしいケイトの匂いを思いっきり吸い込んで膨らむ静子の胸にケイトの尖った乳房が押し付けられます。

順番を待つ間ケイトはとてもよく喋りました。職場のこと、両親のこと、そしてボーイフレンドとまた別れちゃったことも。そして二人はチェックインしたらバーで落ち合うことにしました。

二人の部屋は偶然隣同士です。

「シャワーを浴びたいから30分後でいい?」

「もちろん。私も長いフライトだったからシャワーを浴びるわ。じゃあ、あとでね」

ガチャリとドアを閉めた静子は気持ちが高揚してくるのを感じました。スーツを脱いでクローゼットに掛け、スーツケースからもう一着のスーツを出してそれもクローゼットに掛けます。ブラウスや下着類は引き出しに仕舞い、化粧道具はバスルームに並べます。いつもならこの後でPCを繋いでメールをチェックするところなのですが、今夜は後回しです。それに急ぎの用件なら電話が掛かってくるはずです。

ブラウスを脱ぎ、下着を落とした静子はバスルームに行き、シャワーキャップを被ってからバスタブに入ります。シャワーカーテンを閉じてお湯の温度を調整してから、裸身に熱いお湯を掛けると長いフライトの疲れが流れ落ちるようです。念入りにボディーシャンプーをすり込むように爪先から順に身体を洗います。

『まあ、ビキニラインが』

いつも綺麗に剃っていた恥毛が少し伸びています。最近コージと肌を合わせることが少ないから、手入れがおざなりになっていたのです。

静子はカーテンを少し開けて手を伸ばすと、化粧バッグからレディースシェーバーを取り出しました。そしてボディシャンプーを下腹部にたっぷりと付けると、中央の小さな逆三角形を残してその周囲に丁寧にシェーバーを這わせます。左手で皮膚を伸ばすようにして剃りあげるのです。

小さな三角形を綺麗に整えた静子はバスタブの中にしゃがみこむと、今度は大きく脚を開いてVゾーンの奥の方にまでシェーバーを這わせます。次第に息が弾んできます。

『でもどうしてこんな事しているのかしら?ケイトと会うだけなのに』

静子の心の中の冷静な部分がそう思ったのと、左手の中指がボディシャンプーではないヌルヌルしたものに触れたのは同時でした。

「アァー」

左手は止まることなく静子の局部を這い回り、右手に持ったシェーバーが後を追うように肌を滑ります。そして産毛の一本さえ無くなった頃には、静子は カーテンを閉じたバスタブの底に大きく開いた両膝を付いたまま、ハァーハァーと荒い呼吸を繰り返していたのです。熱いシャワーを背中に浴びながら左手は尚も局部を這い回り、いつのまにかシェーバーを落とした右手はギュッと乳房を握り締めていたのです。


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