エピソード II〜 ジーナ

4.本当の私

一緒に絶頂に達して互いの腹部に射精してしまった後、僕達はしばらくじっと抱き合っていたのですが、そのうちにローラが枕元に置いてあったティッシュを何枚か取り、身体を起こしながら二人の腹部 に溜まっていた精液を拭き取ってくれました。それからローラは僕をバスルームに連れて行ってカツラを外し、メークを落としてくれました。

見かけはマイクに戻った僕でしたが、ローラにバスタブで身体を洗われている間も、気持ちはジーナのままでした。もちろん声や話し方はジーナのままです。体腔に押し込んだ陰嚢を留めているハート型のテープをローラが剥がそうとした時も、そのままにしてと頼んだの は、陰嚢が外に出てしまうとマイクに戻ってしまう気がしたからなのです。

シャワーの後もなるべく鏡を見ないように体を拭き、下着も着けずにピンク色のバスローブを素肌に纏ってリビングのソファーに座り、夕食の支度を始めたローラを眺めていました。湯上りのピンクに染まった肢体を 薄いグレーのホットパンツとタンクトップに包んだローラは、てきぱきとパスタを茹でながら缶詰のミートソースを温めていました。

食事の間も僕はあまり話しませんでした がローラは僕をジーナとして話しかけてくれ、昔の自分の葛藤や、僕のように悩んでいた知人の話を沢山してくれました。それがどれだけ僕の気持ちを楽にしてくれたか。そして外見はマイクに戻っても、ジーナとして話したり振舞うことがとても心地良いことに気付いた僕は、初めて自分の本当の心を理解できた気がしたのでした。

知識も経験も豊富なローラの提案で、僕はラボではマイクとして今までどおり過ごしますが、プライベートでは好きなだけ女装してジーナになる時間を作ってみることにしました。そして近いうちに専門のカウンセラーに会うことにしたのです。

こうして具体的にプランが定まってくると僕は少し落ち着いてきました。そして女装に必要な最低限の化粧品やパット入りの下着、それに何枚かのドレスをローラに借りると僕は自分のアパートに帰りました。途中でドラッグストアに寄って 女性用のシャンプーやボディローション、そして陰嚢を留めるためのメディカルテープと1枚刃の剃刀を買うのも忘れませんでした。家に帰ってまずは無駄な体毛を剃るつもりだったのですが、最近の3枚刃や4枚刃の剃刀では毛がすぐに詰まって剃りにくいことをローラが教えてくれたのです。

両脚の毛を全て剃ってしまった僕は、思った以上に自分の脚が綺麗なことに驚きました。黒い毛が生えているのといないのではこうも違うのかと、脛毛を気にする女性の気持ちがとてもよく分かりました。脚の次はビキニラインです。ローラに借りたTバックからはみ出さない様に恥毛を整えます。そして両脚がツルツルになり、ビキニラインが美しく整えられると、今度はペニスや陰嚢に生えている毛が気になります。ハート型のテープを剥がすと陰嚢がゆっくりと顔を出します。傷をつけないように、皮膚を引っ張りながらペニスも陰嚢も丁寧に剃り上げました。

陰嚢を剃っていると会陰部やアヌスの周りの毛も気になるので、そこも剃ってしまいました。左手の指で探りながらゆっくりと丁寧に。シャワーで綺麗に洗い流し、帰りに買った女性用のボディシャンプーを付けて両手で下半身を撫で回してみると、それはまさにジーナの身体です。

ああ、こんなに気持ちいいなんて。

僕は剃毛の快感に夢中になり、上半身も剃り始めました。腹部から胸にかけて。乳首の周り。そして腋の毛も。腕の毛はどうしようかと悩みました。でもマイクの腕が突然無毛になってはおかしいので、腕は諦めました。もう一度全身にボディシャンプーを付けて洗いながら、剃り残しが無いか念入りにチェックします。そして最後に念入りにシャワーで洗い流してから僕はバスタブを出ました。

鏡に写る姿は、顔こそマイクですが身体はジーナになった気がします。僕は鏡の中のジーナを見つめながら身体を拭くと、バスタオルを身体に巻きつけ、もう一枚のバスタオルで頭を被います。 そして全身を鏡に映しながらバスタオルを身体から離すと、良い香りのするボディーローションを裸身に塗りこめます。そしてもう一度バスタオルを巻きつけて寝室に向かい、 ベッドの前でバスタオルを落として全裸になるとそのままベッドに潜り込んだのでした。

* * * * * *

「おはよう、マイク!」

昨夜のことを思い出しながらぼんやりしていた僕はローラの声で我に帰りました。目の前のパソコンには読まなければならない論文がいくつも表示されていて、先ほどから目では文字を追ってい たのですが、一向に頭には入ってこなかったのです。

僕は振り向くとニッコリ笑いました。

「ああ、おはよう、ローラ」

ローラは僕の傍まで近づくと顔を近づけて囁きます。

「大丈夫?」

「ありがとう。大丈夫だよ」

「マイク、何でも相談してね。私、あなたの力になりたいの」

「ありがとう、ローラ。もちろん、相談するよ」

自分の席にバッグを置いて早速実験の準備に取り掛かかるローラを眺めながら、僕は何度も心の中で『ありがとう、ローラ』と繰り返したのでした。

 

普段のウィークデーの夜は別々に過ごすことが殆どだった僕たちも今週だけは別でした。水曜日だけは以前からの約束で友達と食事に出かけたローラでしたが、他の日は毎晩僕をアパートに呼んでくれたのです。ローラの部屋で僕はジーナに変身し、そしてローラと肌を合わせました。毎晩遅くに外見だけマイクに戻って自分のアパートに帰っても僕の中身はジーナのままでした。

水曜日だけは自分でメークをしてみました。ローラのようには上手く行きませんでしたが、アイラインやアイシャドーを付けて口紅を塗ると気持ちが落ち着いたのです。カツラを付けて、ローラに借りたドレスを次から次へと着ては鏡の前でポーズを取り、どうすれば女性らしく見えるか一生懸命に練習したのです。

金曜日の午後3時に女医のドクター・クリスティンの予約が取れ、僕達は昼から休みを貰って出かけました。この先生はローラがカリフォルニアに引越してきてからずっと指導を受けており、先生自らもTGであることもあって、ローラはとても信頼していたのです。

カウンセリングの結果、先生は3ヶ月ほど様子をみましょうとおっしゃいました。直ぐにでもホルモン療法を開始してもらえるかと期待していた僕は少しがっかりしましたが、もっと重度の性同一性障害だったローラでも同じくらいは観察期間があったそうなので、ずっと軽度の僕としてはそれくらい待つのは当然なのでしょう。なにしろつい先週末までは自分の内面に秘められた『女性』を知らずに過ごしていたのですから。

順調に行けば夏にはホルモン療法を始められる。

より具体的にプランが決まってくると、僕の心は一層幸せな気持ちで満たされるような気がしました。と言っても、今まで特に不満があったわけではなく、単に僕自身の本当の気持ちを知らなかっただけなのですが、こうして自分の真実を姿を知るにつれて、余計に毎日を充実して過ごそうという気分になるから不思議です。マイクとしてラボにいる間はもちろん、アパートに帰ってジーナになっても一生懸命勉強しました。だって、ジーナにも一流の生物学者になって欲しかったからです。

女性になるための練習にも熱中しました。メークの仕方は当然ですが、発声法や歩き方、ちょっとしたしぐさなど、テレビを見ては真似をし、週末にローラに披露して褒めてもらおうと夢中だったのです。もちろん髪の毛も伸ばし始めました。ローラのいきつけのヘアーサロンで、男装にも女装にも簡単に合わせられるスタイルにしてもらいながら、少しずつ伸ばしていったのです。

週末はジーナになりきってローラと一緒に外出しました。最初の日に穿いた黒のレギンズは私のお気に入りになりましたが、それ以外の薄い色も少しずつ穿くようになり、遂には真っ白のレギンズでも外出できるようになりました。以外に難しかったのがジーンズでした。もともとが男女差の少ないデザインですから、 女性用のジーンズを穿いただけでは女性には見えないのですね。

腕の毛を思い切って剃ってしまったのもその頃です。いつまでも長袖ばかりというわけにはいきませんから。その代わり、マイクはずっと長袖で過ごさなければなりませんでした。でもラボは冷房が良く効いているので、そんなに不自然ではなかったのです。

毎週末は女装してローラと出かけていた私でしたが、それでも女装のままで一人で外出することは未だできませんでした。ローラが傍に付いていてくれないと怖かったのです。

一人で唯一女性の気分を味わえたのはサイクリングの時です。他に趣味の無い私が唯一長く続けているのがサイクリングですが、ジョギングの大好きなローラは自転車を買ってまで私に付き合ってはくれなかったので、仕方なく一人で乗っていたのです。最初はツルツルに剃った脚が膝上少し覗くだけでとても恥ずかしかったのですが、次第にそれが快感に変わっていきました。特に街中を走っていて信号待ちで止まった時など、周りの人が私の太腿やお尻を見つめているようでドキドキしたのです。女性用のウエアを着ているわけでもないし、胸にパッド入りのブラをしてるわけでもないので、どこから見ても男なのですが私自身は女として見られる気持ちになっていたのです。

そんな私がショーツのパッドを取ってしまうまで時間はかかりませんでした。サイクリングショーツにはサドルからの衝撃を和らげるためのパッドが下腹部から会陰部、そしてお尻にかけて縫い付けてあるのですが、そのパッドを取ってしまうのです。パッドの無くなったショーツは薄手のスパンデックス生地ですから、身体に見事にフィットしてお尻の割れ目の最奥まで食い込むのです。当然下着は着けていませんから、ショーツがアヌスに直接触れるのです。

前はそのままだと不自然な隆起が出てしまいますから、陰嚢は体腔に押し込んでローラに教わったテープで留め、ペニスを下に向けてショーツを穿きます。そしてショーツがずれないように薄い幅広のベルト をショーツの上端に巻きつけ、二三度折り返してベルトを腰骨辺りで留めると、伸縮性の良いショーツは下半身に張り付いたように身体のラインを露わにするのです。

薄手のショーツを会陰部に食い込ませてサドルに跨ると、細かな振動がまともに伝わります。ハンドルの下の方を持って前傾姿勢を取ると、会陰部に密着したペニスの先がサドルに触れて私はクリトリスで感じる女性の気持ちを味わい、一方、ショーツを食い込ませたアヌスはサドルから浮き上がり、後ろを走る人たちの視線に晒されるのです。

サイクリングだとこんなに大胆なことができるのは、ヘルメットやサングラスで顔が隠れていること、それに他の人と話すことがまず無いからでしょうね。

そしてとうとう6月最後の週末、私は女装でのサイクリングを決行したのです。といってもサンタモニカの海岸まではローラと一緒に車で行って、そこから別行動をしようという計画です。前の週にローラに付き合ってもらって買った女性用ウエアを前に私は胸をドキドキさせていました。

いつものように陰嚢を体腔に納めてテープで留めてからペニスを下に向けて黒のバイクショーツを穿き、お尻に食い込ませてからベルトで留めます。パッド入りのブラで胸を強調したあと、ピンクのウエアを着たところで玄関のチャイムが鳴りました。きっとローラです。

ドアを開けると黄色と青のUCLAカラーのホットパンツとタンクトップに身を包んだローラがニッコリ笑っています。

「良く似合うわ」

私を見るなりローラはそう言ってギュッと抱きしめてくれました。

「あと、シューズもヘルメットも同じピンクなのよ」

ドアの横を指差しながら私はニッコリ笑います。

「いいわね。じゃあメークは任せて」

ローラをバスルームに案内すると、「まあ、随分女の子らしいバスルームになったわね」とローラが歓声を上げ、「少しずつだけど」と私は答えます。

毎日練習しているとはいえ、まだまだメークは上手になりません。だから外出する時はローラにしてもらわないと不安で仕方ないのです。

「ああ、そうだ、ヘルメットとサングラスを持ってきて。合わせてみないとね」

メークが大体仕上がったところでローラに言われて私はリビングに取りに行き、ヘルメットを被って戻ります。

「サングラスもかけてみて?」

「どう?」

サングラスをかけた私は少し首をかしげます。

「もう少し口紅を赤くしようかな。そのままここへ座って」

ローラは別の口紅を取ると、少し太い目に私の唇に塗りつけます。

「太すぎない?」

「ちょっと派手目にしないと、サングラスやピンクのヘルメットに負けそうだから、これ位の方がいいのよ」

確かにそう言われると先ほどよりは口元が引き締まって精悍な感じがします。

「立ってみて」

私はそのまま立ち上がり、両手を腰にあててポーズを取ります。

「いいわ。体格の良いジーナの身体によく似合ってる」

鏡を覗き込むと、確かに女性ライダーの雰囲気が出ています。

「ありがとう、ローラ」

私はそう言うとサングラスとヘルメットを外してリビングに戻り、スニーカーを履いてから手袋やシューズ、それに水のボトルと一緒にショルダーバッグに入れて肩から下げます。そして既に前輪を外してあるバイクを両手に持ちます。

「私の車で行きましょう」

ローラがキーを目の前にかざしながら言います。

「助かるわ。悪いけど、ドアの鍵を掛けてくれる?」

私がテーブルの上のキーホルダーを見ながら言うと、「OK!」とローラは答えてドアを開けてくれました。

いよいよ外に出るのです。今まで女装で外出する時はいつもローラのアパートからだったので、私のアパートから女装で外に出るのは初めてなのです。

「大丈夫よ、ジーナ。とても綺麗よ」

「そうよね、大丈夫よね。でもサングラスだけは掛けさせて」

私はバッグの中からサングラスを取り出して掛けると、大きく息を吸い吐き出してから思い切ってドアの外へ出ました。

幸い周りには人影はありません。

ローラが鍵を掛けてくれ、私たちは階段を降りて駐車場へと急ぎました。トランクに前輪を入れ、後ろの座席に自転車を押し込んでから私が助手席に座ると、「用意はいい?」とローラが尋ねます。

「いいわ!」

私が大きな声で返事をすると、ローラはブルルンとエンジンを掛け、ゆっくりとボルボをスタートさせました。

 

サンタモニカのビーチ沿いの駐車場に車を止めると、ローラはストレッチを始め、私は前輪を取り付けてからバイク用のシューズに穿き換えます。周りには車もまばらで人影もあまりありません。手袋を嵌め、水のボトルをバイクに取り付け、ヘルメットを被ると私も準備完了です。

「じゃあ、30分後でいい?」

「ええっ、そんなに長く?最初は15分位にして?一人だと不安なの」

「じゃあ、キーを渡しておくから不安になったら車に戻って待ってて。私は30分後に戻るわ。大丈夫よ、ジーナ。じゃあね!」

ローラはキーをポーンと投げると、サンタモニカ・ピアの方へ向かって走り出しました。

ああ、一人にしないで。

いつの間にか車は増え、あちこちで車から降りてきた人達が私を見ているような気になってきました。私は下を向いて視線を合わせないようにしながら、ローラの車のキーをサドルの後ろのバッグに仕舞うと、ハンドルを両手でしっかり握ってバイクに跨り、右足をペダルにロックしました。薄手のショーツが伸びてお尻の割れ目に食い込み、一層人々の視線を集めるような気がします。

早く動かないと。

じっとしていては余計にジロジロと見つめられそうで、私は左脚で地面を蹴って走り出しました。本当はローラの向かったピアの方へ行きたかったのですが、そちらは人も多いので反対の方へ私は向かうことにしました。

少し走ると人影もまばらになり私は落ち着いてきました。そして時折すれ違う男性達がニッコリ微笑んでくれるのです。今まではすれ違い様に軽く手を上げたり、首を縦に振って合図することはあっても、微笑まれることは無かったのに。でも確かに私も女性のライダーとすれ違うとニッコリ笑っていました。

女性だと思われるてるのだわ。

私は嬉しくなると同時に身体が強張るのを感じました。女として見られている。しかも、パッド入りのブラを着けている上半身はともかく、下半身はパッドを外した薄手のバイクショーツで太腿からお尻を被っているだけなのです。しかし身体の強張りは次第に快感に代わり、私はハンドルの下の方に手を持ち替えて身体をさらに前に倒します。クリトリスがサドルに刺激されて身体の奥に甘い痺れが走ります。そしてもちろんバイクショーツを食い込ませたアヌスはサドルから浮き上がって後からの視線を待っているのです。

その時、私は後ろに気配を感じて振り返りました。男性二人がすぐ後を着いて来ているではありませんか。

私は顔が熱くなるのを感じました。まさかあの二人に見つめられながらお尻を持ち上げたのでしょうか?

ああ、どうか早く追い抜いて頂戴。

私は少し右に寄って同じペースで走り続けます。しかし後の二人は一向に追い抜く気配は無く、私のすぐ後ろにピタリと着いているのです。

ああ、見られてるわ。

私はハンドルを持ち替えて上体を起こそうかと思いましたが、却って意識しているようでそれも出来ず、ただ同じペースで走り続けています。

やっと左側の男性が私の横に並びかけました。

追い抜いてくれるのね。

ところが男性は前輪が私の目に入るところまで来るとそれ以上は前に出ないのです。ハーハーという男性の息遣いが聞こえます。

ああ、なんと男性は私のお尻を間近で眺めているのです。

そしてあろうことか、右側の男性も私に近づいて、反対側から私のお尻を見つめているではありませんか。

両側から間近で見つめられて私のお尻は熱く燃え上がります。そして先ほどからサドルの振動で刺激し続けられていたクリトリスがついに喘ぎだしたのです。身体の奥で何かがドクンと流れた気がしてクリトリスの先が濡れたことがはっきりと分かります。

ああ、駄目。

私はもう耐えられなくなってハンドルを持ち替えて身体を起こし、アヌスを男性の視界から遠ざけました。そして少しペースを落とすと 男性達はニッコリ笑いながら追い越しざまにヒューと口笛を吹いて去って行きました。

ふと時計を見るとローラと別れてから15分も経っています。私は水のボトルを取って一口飲むと、Uターンをして駐車場へと向かったのです。

 

駐車場へ戻ると既にローラが戻ってストレッチをしています。

「御免ね、ローラ。待った?」

「私も今戻ったところ。どうだった?」

息を弾ませながらローラが尋ねます。

「大丈夫だったわ。それどころか。。。」

「それどころか?」

「見られて感じちゃった」

「まあ、詳しく聞かせて?」

「車の中でね。ここでは恥ずかしいわ」

私はバイクの前輪を外すと再び車に押し込んでからヘルメットだけを外して助手席に乗り込みました。そしてサイクリング中の出来事をローラに話したのです。

* * * * * *

女装でのサイクリングにすっかり自信をつけた私は毎週末一人でサイクリングに出かけました。しかも翌週こそは車で海岸まで行きましたが、その次の週からはアパートから女装で出かけたのです。海岸に出るまでは住宅地を走るので、時折信号で止まらなければならないのですが、そんな時に横に止まった車から注がれる視線がまた堪らなかったのです。

そして女装が自然にできるようになるにつれて、マイクでいる時間の方が却って緊張するようになってきたのです。ウィークデーは毎朝マイクになってラボに出かけるのですが、アパートを出た瞬間から気持ちを切り替えないと、ついついジーナに戻ってしまいそうなのです。きっと女性が男装するとこんな気分なのかしら、宝塚の男役ってこんな感じなのかしらと思い巡らせながら、ラボではマイクの役割を演じていました。そんな気分になったのは、マイクでいる時も陰嚢は体腔に納めて女性用のTバックを身に付けていたからかもしれません。ローラのようにペニスに嫌悪感を持つことはありませんでしたが、その代わりに陰嚢の無い快感を知ってしまった私は、シャワーを浴びる時だけはテープを剥がして、皮膚を少し休めてあげましたが、それ以外はほとんど常に、眠る時でさえ陰嚢を外には出しませんでした。私にとっては女性の身体にペニスが付いているのは背徳の美しさに思えたのですが、その後でぶらぶらしている陰嚢はとても美しいものには思えなかったのです。

7月の終わりにはカウンセリングを始めて3ヶ月が経ちました。ドクター・クリスティンも私の意志がゆるぎないこと、また女性としての将来を理解して下さり、ホルモン療法を始めることを許可して下さいました。

私自身は自分の子供を持つことには興味は無かったのですが、ドクター・クリスティンの強い勧めで精子を保存しておくことにもしました。あれほどペニスに嫌悪感を持っていたローラですら精子は残しているということなので、私も異存はありません。

そしていよいよホルモン療法を開始したのです。個人差は非常に大きいらしいですが、私の年齢だと早い人だと半年位から変化が見え始め、1年も経つとかなり女性らしい身体になるだろうということです。

「ローラ。何てお礼を言っていいか分からないわ。あなたのお陰で、私は本当の自分を見つけた気がするわ。マイクも嫌いじゃないのよ。でも本当の自分はジーナだったの」

「私も今でもマイクは好きよ。もちろんジーナも。私にとってはマイクもジーナも同じあなたなの。外見とか話し方とかは違っても、あなたはあなたなの。不思議だけど。だからこれからもずっと私はマイクもジーナも両方愛せると思うわ」

私たちは車に乗り込むと、もう一度強く抱き合って唇を合わせ、舌を吸い合ったのでした。


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