チャイナタウン編(2)籠の中

陳夫人の局部のシルエットに目を奪われていた私が籠の方へ視線を向けると、闇にまぎれている夫人の引き締まった向こう脛に灰色のロープが巻きついています。

いえ、ロープのように見えたものはゆっくりと夫人の足を登っていくではありませんか。

ハァッと思わず叫びそうになって息を飲み込み、静子夫人と顔を見合わせます。

「へび?」

二人は同時に囁きました。

そうです。灰色の蛇が夫人の白い足に絡み付いて少しずつ上の方へと登って行くのです。

客席が騒がしくなり、あちらこちらから女性の悲鳴が上がります。蛇の頭は膝にまで達し、もう誰の目にも明らかです。

再び チェロのゆったりとした調べが流れ始め、小さなスポットライトが陳夫人の顔を照らします。蛇はシルエットになっている夫人の太腿に巻きつきながら這いあがりますが、夫人は無表情のままで正面を見据えておられます。ようやく蛇の尻尾が籠から出ました。

私は左手で静子夫人の手を握ります。蛇は太腿に巻きつきながらさらに這い上がり、陳夫人の呼吸が荒くなってきます。静子夫人も私の手をきつく握りしめます。

蛇の頭部はもう陳夫人の太腿を越えて、サイドスリットから大きく露出した腰の辺りにまで達し、そこから今度は斜め下に向きを変えて夫人の下腹部へと向かってきているようです。客席は静まり返り、全員の視線がシルエットとなった陳夫人の下半身に注がれているのです。

蛇の頭部が太腿の付根を舐めるように進み、夫人の局部を覆って垂れ下がる布地の陰に入りました。しかし、夫人の後ろから浴びせられるスポットライトの光が蛇の動きをありありと浮かび上がらせるのです。低く流れるチェロの調べの合間に、陳夫人の「ハァー、ハァー」という息の音が部屋中に響きます。

蛇の頭部のシルエットは夫人の両太腿の間で一旦止まると、真上を向いてまるで獲物を狙うようにゆっくりと左右に揺れ、一方、灰色の胴体は堂々と晒された白い太腿に二重三重に巻き付いています。

夫人は微動だにせず、ただ濡れた唇を半開きにして「ハァー、ハァー」と熱い吐息を吐くばかりです。

そして全員が固唾を呑んで見守るうちに、蛇の頭部のシルエットが真っ直ぐ上へ動き、夫人の局部が織り成すシルエットに同化した瞬間、夫人の口からは一際高い喘ぎ声が漏れたのです。

「ァアア」

スポットライトに顔を照らされる陳夫人は目を閉じて必死で何かに耐えておられるようです。

蛇は再び前進を始めたようで、太腿に巻きついた胴体がするすると動き、布地の陰に入るとシルエットとなってまるで夫人の体の中に潜り込んでいくように見えます。

「ォオオオ」

陳夫人が顔を仰け反らせて喘ぎ声を上げられます。

まさか。

蛇の胴体は20センチ程も進むと止まりました。 真っ直ぐ正面に向けられた陳夫人の顔は上気して目は潤み、半開きの口から「ハァー、ハァー」と荒い息を吐かれる度に豊満な胸が上下します。

しばらくそのままの姿勢で耐えておられた夫人は、思いつめたような表情を見せると、息を止め、左膝を少し曲げてバランスを取りながら右足を籠から出して、籠のすぐ内側に赤いヒールに載せた美しい足を置 かれ、そしてゆっくりと半回転すると私たちの方にその見事な後姿を見せ、再び開脚のポーズをとられたのです。

夫人のお尻から垂れる布地がスポットライトで透けて、太腿の付根から会陰部にかけての形が手に取るように分かります。でも蛇の頭はどこにもありません。 太腿に巻き付いている蛇の頭部は夫人の体と一体になってしまったのです。

静子夫人と私は互いの手を握り締め、見つめ合いました。

陳夫人は再び両手を大きく拡げてバランスを取ると、今度は左足を横に上げて籠の中に降ろしていかれます。 そして客席にいる全員の期待に答えるように、籠の中に降ろした左足にも灰色の蛇が這い上がってきたのです。

もう悲鳴を上げる者もおらず、客席はシーンと静まり返ったまま、チェロの調べだけが淡々と続きます。

蛇は左足のふくらはぎから膝へ、そして太腿を這い上がります。そして大きく露出した腰のあたりまで達すると、右下の方へ向きを変えて夫人のお尻を辛うじて覆う布地の中に頭を忍び込ませました。布地が少し膨らんで見え るだけで蛇の姿は見えませんが、太腿に巻きついた胴体が解けるようにゆっくりと動いています。

陳夫人が上体を少し前に倒してお尻を突き出すと、ちょうどお尻を斜めに横切った蛇の頭が太腿の間にシルエットとなって現れました。そして蛇は頭をグイッと上に向けると二三度横に頭を振り、そして狙いを定めたのか、まっすぐに夫人の会陰部に向かって動き始めたのです。

蛇の頭部が作り出すシルエットが会陰部のシルエットに重なり、陳夫人が喘ぎます。

「ァアア」

しかし蛇はその動きを止めることなく、太腿に巻きついた胴体がするすると動いてお尻を覆う布地に潜り込み、そして両太腿の間に映る蛇のシルエットはまるで夫人の体の中に潜り込んでいくように見えます。

「ォオオオ、ォオオオ」

フィナーレのように朗々と鳴り響くチェロの調べと競うように、 陳夫人は大きく喘ぎながら、しかし腰に手を置いた開脚の姿勢は崩さずに、時折、二匹の蛇を巻きつけた左右の太腿をブルブルと震わせるのです。

ようやく左の太腿に巻き付いていた蛇 が前進を止めると、スポットライトが消え、同時にチェロの調べも止みました。真っ暗な部屋には陳夫人の喘ぎ声だけが響きますが、次第にその声も弱くなり、とうとう部屋は静寂に包まれます。

私は静子夫人の手を握り締めながら息を詰めて耳を澄まし、先ほどまで陳夫人が立っておられたあたりを見詰めていました。


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